『木炭のなかの不死鳥』
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『木炭のなかの不死鳥』
ある冬の深夜。
部屋の隅に、火鉢があった。
灯りはない。
ただその火鉢だけが、暗闇をわずかに照らしていた。
中に敷かれているのは、使い古された木炭。
黒ずみ、表面はひび割れている。
まるで何も語らない老人のように、
沈黙を抱え、何かを終えたような風情がある。
だが、それは“終わり”ではなかった。
いや、“終わったフリ”をしていただけだったのだ。
炭の奥にまだ残っているものがある。
熱だ。記憶だ。想いだ。
それは、目には見えないけれど──確かに“まだ燃えている”。
ふいに、火箸が入れられた。
ちょっとかき混ぜられるだけで
そこにあった微かな熱が空気を食い、赤く灯る。
やがて一筋の光が、ゆらゆらと昇りはじめる。
そう、それはまるで、不死鳥の呼吸。
静かに、ゆっくりと。
灰の中から立ち上がっていく。
声をあげず、ただただ確かに──生き返っていくのだ。
“もう一度、燃えていい”
“まだ、終わってなかったんだ”
炭は知っていた。
その炎は、誰かの中にも同じように眠っていることを。
誰かの中にも、灰になったと信じ込んでいる想いがあることを。
でも、君の奥にも、その赤がある。
かき混ぜれば、空気があれば、また燃える。
燃えかすの中から立ち上がる不死鳥のように。
火鉢は、静かだ。だけどそれは、終わりの静けさじゃない。始まりの静けさだ。
この物語は「あなた」の話です。
もう一度、燃えたいと思っているあなたへ。
誰にも気づかれなくても、静かに火がついているあなたへ。
あなたの中の火鉢を信じてください。
そこから立ち上がるものこそ、本当のあなたです。